2024年5月Vol.134 サクッと小噺

※小噺は過去分を随時アップしております。内容に時差がある場合もありますが、是非ご覧ください。

おかげさまでP.D.R.は40周年をむかえました。ひとえに支えてくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
ささやかながら感謝をこめて、私のオススメ書籍をプレゼントいたします。40周年記念なので、「時の流れ」に思いを馳せる本を選んでみました。よかったらご応募ください。
※過去の小噺投稿のため現在、応募は受け付けておりません。
「サク」のおすすめの本なのでよろしければご覧ください。

そしてバトンは渡された 瀬尾まいこ著
本屋大賞の小説です。主人公の優子は幼くして母を亡くし、父が再婚して父と継母に育てられるのですが、父が仕事で海外へ出ていき、父と継母は離婚して、優子は継母と二人暮らしになります。継母が再婚して二番目の父親ができたのも束の間、また継母が離婚と再婚をして三番目の父親ができて、継母はある理由のために去ってしまうので、優子は三番目の父親と二人暮らしとなり、そこで成人します。
可哀想・・・というのは早合点で、優子は二人の母親と三人の父親からたくさん愛されて
育ちます。彼らが普通の親子より優れている点は、お互いの存在を当然と思わずに、いつも感謝している事です。三番目の父親が「優子ちゃんが来てわかったよ。自分より大事なものがあるのは幸せだ」と話していたのが印象的です。親達は育児を義務としてとらえていません、優子も生活を権利としてとらえていません。親も優子も共に生きる事を「有り難いこと」と分かっていて、結果的に、普通の親子の話よりも親子愛が純粋に伝わってきます。私は温かい涙がボロボロこぼれました。

たゆたえども沈まず 原田マハ著
画家ゴッホと弟テオをめぐる実話に基づいた物語です。今では100億円の値がつくゴッホは、生存中は1枚しか絵が売れなくて、テオの経済援助ナシには食べていけませんでした。ゴッホは稼げない上に、精神的に不安定で、生活も乱れていて、まさに社会不適合者。一方、テオは画商勤務で、芸術の都パリの店舗を任されていますから、敏腕ビジネスマンです。テオは当時の権威画家ジェロームや新興モネの絵にも親しむ中で、ゴッホの絵の素晴らしさを確信しています。しかし今の世間に受け入れられないことも分かっていました。テオは「兄さんの絵は新しすぎて世間には理解できない」と、芸術家にとっては最上の褒め言葉で説明します。
お洒落にスーツを着こなすテオと、浮浪者のように汚いゴッホ。顧客のブルジョアジーと気の利いた会話ができるテオと、画家仲間とさえうまく話せないゴッホ。でも、テオはゴッホを認め、励まし、支え続けます。テオがいなければゴッホの絵はありません。ゴッホは1890年7月に37才で亡くなり、テオは兄の後を追うように1891年1月に亡くなりました。冷たい言い方をすると「ゴッホがテオに依存してたというより相互依存だね」とも言えますが、ゴッホが人類に残した芸術を見ると、この兄弟は神様から人類へのギフトだったのだろうと思います。でも本人達の人生は犠牲にされたようなもので、なんとも不憫な気持ちになりますが、彼らの人生の中で称賛されていたらあのような絵は描けなかったかもしれません。切ないですね。

ローマ人の物語 塩野七生著
文庫版は全43巻。私は9年かけて読了しました。なにせ長いので、飽きて1年以上読まない期間も何度かあったのですが、それでもまた再開させる魅力があります。学術的な歴史本というには著者の主観が入りすぎていて、だからといってフィクションでは無いので歴史小説とも言えない、不思議な本です。著者が人生をかけて学んだ古代ローマ帝国について、著者が書きたいように執筆した、塩野さんならではの本です。ハンニバルやカエサルなど誰もが「名前だけは知っている」ような人物も多く登場しますが、面白いのは、塩野さんの”推し(オシ)”かそうでないかがハッキリ分かる点です。
執筆しながら「萌ぇ〜♡」ってるかどうかが文章から匂ってきます。真面目で難しい歴史の本ではなく歴史オタク女子が萌えながら推しを語る本、と気軽に手にとってほしいです。実際に私も、読みながら手で床をバシバシ叩いて「あぁ〜♡」と身悶えする事が多々ありました。1巻の「ローマは一日にしてならず」上下巻をお届けいたします。