2024年11月Vol.140 サクッと小噺
※小噺は過去分を随時アップしております。内容に時差がある場合もありますが、是非ご覧ください。
≪ let it go ≫
ありのままの 自分になるの
ありのままの 姿見せるのよ
10年前に一世を風靡したこの歌を、4才の息子が最近よく歌っています。
保育園のお友達に「アナと雪の女王」が好きな子がいて、その子に感化されたようです。
久しぶりにこの歌を聞くと、原文と日本語訳では意味がまったく変わっていることに、
あらためて翻訳って面白いなぁと感動します。
【アナと雪の女王(let it go)原文】
let it go let it go
can’t hold it back anymore
let it go let it go
turn away and slam the door
原文では「let」がなんともイイ仕事をしています。
letの定義をケンブリッジ英英辞典で調べると「to allow something to happen, or to allow someone to do something, by giving your permission or by not doing anything to stop an action」だそうです。
一言でいえば「何かが起こるのを止めない」です。
日本語訳の「ありのままの姿を見せる」は自分に主体性がありますが、原文の「let it go」では主体性は「it」にあります。
let it go とは、itがgoするのを止めないわ〜という意味なので、諦観の境地に近いです。けして悲劇的ではなく、むしろ希望を持つ前向きな歌詞ですが、前提条件として、厳しい環境にいることが想定されます。
letを多用する最も有名なビートルズの歌「let it be」だと、より分かりやすいかもしれません。
【ビートルズ(let it be)原文】
When I find myself in times of trouble
Mother Mary comes to me
Speaking words of wisdom
Let it be
困難の渦中において、その問題を解決しようとするのではなく、ただ受け入れる、という静かな戦い方です。私に当てはめると、俗っぽい例で恐縮ですが、子供の体調不良などで眠れない夜を越すときに、「ありのままの姿見せるのよ〜」と歌う気にはならないし、もし誰かに応援歌として歌われたら「うるさい!と怒るでしょうが、「let it go」や「let it be」なら心に染みます。
「ありのままの姿を見せる」は能動的なので、ある程度のエネルギーが必要です。その一方で、「let it go」や「let it be」は「受け入れる」なので、疲れている時でも可能です。ケースバイケースでどちらも良い応援歌になるのですが、ニュアンスがこれほど変わるなんて、翻訳って本当に難しいし面白いです。
─ということを考えながら、1才の娘の眠れない夜に付き添うとき、
私はlet it goを口ずさみます。
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