2012年11月号Vol.5

「まだ間に合う!クリスマスまでに恋人探し」
最近、Yah●o!のトップページによく出てくる広告です。「余計なお世話だ」と思います。昔から腹が立っていたのですが、なぜクリスマスは恋人と過ごす日なんでしょうか?そもそもクリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う日です。彼のお母様は処女懐胎だし※1、イエスだって恋愛経験はなかったハズです※2。彼の愛は全人類に注がれる無差別の愛であり(アガペーと呼ばれるやつですね)、恋愛とは違います。よってクリスマスと恋人達は何の関係もない。恋人への愛なんて、それこそ特定の人だけに注がれる差別的な愛ではないですか。イエスの愛とは真逆です。一体いつから、日本のクリスマスは恋人達の日になったんでしょう。
誰かの陰謀でしょうか。(私が大学で専攻していたのは宗教学です。)
 ※1 母マリアは、男女の交わりによってイエスを受胎したのではなく、処女のまま妊娠・出産したという信仰です。だからクリスマスにラブホテルが繁盛するなんて現象は、まったく矛盾も甚だしい。
 ※2 妻帯者という説もありますが、いわゆる“正統派”の説によれば、イエスは恋愛することなく生涯を終えています。

 

さて、昨年のクリスマスの話です。悲劇というか喜劇というか…実家にいる妹が、号泣しながら電話をかけてきました。彼女は私と違って、クリスマスには恋人がいて当然というバラ色の人生を送っています。しかし昨年はクリスマスちょっと前に彼氏と別れ、急に予定があいてしまいました。そこで彼女は、久しぶりに両親と過ごす事に決めたそうです。ツリーを飾り立て、ケーキを手配し、シャンパンを買って、ご馳走を作って…。そんな娘の愛を知ってか知らずか、イヴの直前、母がインフルエンザで倒れました。
喘ぐ母を見て、遅いとは思いますが父と妹は二人連れだってインフルエンザの予防接種に出かけたそうです。しかし病院で、父は注射を拒まれました。

 父「おれ注射受けられないらしい」
 妹「えっ?!」
 父「熱があるんだって」
 妹「・・・・・」

 

そう、イヴ当日に、父もインフルエンザで倒れたのです。家族で幸せなクリスマスを過ごす準備は万全だったのに、妹は突然一人になってしまいました。

 

 妹(電話)「おねぇ、クリスマスケーキが減らないんだよ。ずっと食べてるけど、一人じゃ食べきれないんだよ。」
 妹(電話)「ご馳走を一人で食べても美味しくない。これだったらカップラーメンの方がよかった。」
 妹(電話)「今日(12/25)だってさ、一人で昨日の残りご飯とケーキ食べてから、私、バナナとポカリ買ってきたんだよ。だって2人ともバナナとポカリしか食べられないって言うんだもん。クリスマスに、一人でバナナとポカリ買いに行くんだよ!なんで私がこんな目にあわなきゃいけないの…!!」と涙声。

 

彼女は泣きながらバナナとポカリを連呼していました。
バナナとポカリが、虚しさの象徴だったのでしょう。
恋人と別れ、彼女はとても寂しかったと思います。しかし愚痴もこぼさず、「ならばお父様とお母様のために」と健気にクリスマスの用意をしてきたのに、土壇場にきて、二人は病人になってしまいました。
看病のために遊びに出る事もできません。彼女はどれほど落胆したでしょう。
もう不憫やらおかしいやら…「うんうん」と話を聞きながら、私は笑い出してしまわないようにギュッと唇を噛んでいました。次に出た言葉は「太らないようにね。」一人クリスマスに慣れた姉の冷めたアドバイスでした。
このように、クリスマスが特別な日なばっかりに、傷つく人もいるのです。
この日を楽しむのはいいけれど、あんまり煽らないでほしいものです。