2024年9月Vol.138 サクッと小噺 2024年10月15日
※小噺は過去分を随時アップしております。内容に時差がある場合もありますが、是非ご覧ください。
≪棋士≫
この原稿を書いている今は8月末で、藤井聡太棋士が王位戦の防衛をかけて対局をしています。
今回王位戦の防衛に成功すると永世王位の誕生です。ご存知の方も多いと思いますが、将棋界には8つのタイトルがあり(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖、叡王)、各タイトルに永世称号があります。
永世称号の条件は各タイトルごとに違って、たとえば「連続5回竜王になったら永世竜王」というような条件なので、いわゆる「殿堂入り」ですよね。タイトル保持者達の中でも別格になります。歴史に名を残す棋士となるのです。
藤井聡太棋士は全国で愛されるヒーローですが、彼の故郷は愛知県瀬戸市なので、P.D.R.がある愛知県では特に話題になる機会が多いのかもしれません。P.D.R.社内にも瀬戸市出身者が何人かおります。
私自身は将棋のルールもうろ覚えで、将棋を指す事もめったにありません。でも将棋コミック「3月のライオン(羽海野チカ著)」と将棋棋士のエッセイ「うつ病九段(先崎学著)」が大好きで、ほかにもプロ棋士の方々が新聞や雑誌に寄稿する文章も好きなものですから、そういった情報から彼らの想いを勝手に想像して惚れています。
彼らはとにかくカッコいいです。
対局では頭と体の全細胞を使って戦います。でもどんなに自分一人が頑張ったところで、勝負は自分と相手が存在しなければ成り立ちません。2人が真剣に向き合うからこそ、自分一人では描けない世界が盤上に創られていきます。だから、もちろんゼッタイに自分が勝ちたいけれど、同時に相手への巨大な興味と嫉妬とリスペクトを感じます。スポーツアスリートにも同じような感情があると思いますが、将棋は感情が身体の動きとして発散されないためか、これらの感情が悪い意味でなく煮詰まって、より濃度が濃い感じがします。その空気がなんとも独特の魅力を醸し出します。
また、対局日に心身の冴えのピークが来るように調整するのがとてもカッコいいのです。対局前まで研究して、研究して、研究して、研究して、でも対局日に疲れが残らないように調整して、ベストの状態で対局に臨んで、その対局の勝ち負けが決まって、また研究して、研究して…の繰り返しですが、ある棋士の方によれば「対局翌日は頭も体も使い物にならない」そうです。疲れすぎて普通に食べたり寝ることさえ難しい、と。
そのメリハリがすごくカッコいいではないですか。私は普通の会社員なので、基本的には一定で安定した働きをすることが求められます。もちろん少しは仕事の強度の波もあるし、自分のパフォーマンスの波もありますが、その浮き沈みは大したものではありません。ある日に自分をギリギリまで絞り切って、その翌日は何もできない、というほどのメリハリは普通の社会人にはあまり無いものです。一方で、プロ棋士の生活はこのメリハリの繰り返しです。なんて高度な自己制御能力でしょう!
そんな訳で、私は将棋そのものを楽しんでいるというより、プロ棋士の感情や生活を勝手に想像して楽しんでいます。
邪道かもしれませんが、こんな楽しみ方があっても良いのではないかと思います。永世王位まであと1勝!応援しています〜